メルトルーフ誕生秘話(その3)
声に従い 鉄骨屋へ
それから仕事を続け、10時近くになったので、川向うの鉄骨屋さんにおもむいた。「こんにちは、鉄のアングル分けて頂きたいんですが」「何に使うの」「いま屋根の工事をしていて、トタンを曲げるのに使うのです」「幅はどれくらいあるの」「90センチのものを曲げます」と言うと、人のよさそうな鉄骨屋の人は、立ち上がり壁際においてあった材料の中から1メートル50くらいの角材一本を引き出し「これ上げますから」と。牧野は主の【貰ってきなさい】という言葉を思い浮かべ涙の出る思いであった。
つづいて 行きなれたホームセンターに入り 鋏売り場に 何度も買い物している店、どこに何があるかよくわかっているので、まっすぐに鉄板切鋏の売り場に行った。あった 壁にかけて何本かの鋏はあった。やっぱり「自分の所有しているものと同じじゃん」 と思った。そして売り場の壁の上の方に区切りのような桟が打たれており、その上にちと変わった形のはさみのようなものがあった。一見すると、カマキリの姿を思い出すような形であった。彼は背伸びして、その鋏を手に取って眺めた。鋏にぶら下げてある説明書に、宣伝の文字が書いてあった。この鋏はまっすぐよく切れるとか、円形を切るのにはこのようにして使う、とか説明があった。普通の鋏は千円台なのに、そのカマキリ鋏は、4500円 5500円 6500円と 高値の表示があった。伝えられた鋏は「これかな」と思い、5500円の物を買った。
いよいよ 曲げ工事 切工事
牧野は少ない大工道具を使用して、トタン曲げの台を作り、角材の角をけづってアングルを取り付けた、大工さんのようなできではなかったが、トタンを曲げるのには十分であった。トタンの曲げる線を合わせてトタンを動かないようにビスでとめて、いよいよ大小の金敷を両手に持って、少しの力でアングルの角の当たりをはたいた。すると角の線が現れ、さらに全面を打つとトタンは希望するように直角に曲がった。「確かにできたなー」と思いながら、トタンを止めていたビスを外した。
熱伝導板の母屋の当たるところに切り込みをいれた。確かに鋏は、紙を切るように容易に鋼板を切ることができた。そして最初に鋏を入れた角度のまま真っすぐに切れた。もし間違った角度で鋏を入れたら、正しい角度に修正するのが困難なほど、まっすぐに切れた。
結露水を流す樋ーなかなのくせもの
熱伝導板を一列入れ終わると、その下部に結露水を流すための樋を取り付けた。この樋は50ミリの塩ビ管を半割したものである。墨付けして4メートルのものを割ったのであるが、これが割り終わると、なんとなく捻じれている。この樋は熱伝導板の下部に針金で止めて取り付けた。工事したときは、半割管はちゃんと上を向いてついているが、屋根裏の狭いところでの仕事なので、次の仕事をしているとき、前に取り付けた半割管に触れて、半割管か横向いてついていたり、なかなか手間がかかった。この半割管は後で、矢型樋に取り換えた。
熱伝導板工事は終了したけどー 赤飯がのどに通らない
熱伝導板工事は順調に進み、2日で完了した。ピタッと全面に熱伝導板を張った屋根は見事な眺めであった。そして、功と妻美智子はお祝いのしるしに赤飯を作って食べることにした。二人は古い人間であるから、お祝い事のごちそうは赤飯を思い出すのである。美味しい美味しくないは別として、祝い事のしるしは、赤飯なのである。
赤飯ができて、二人は夕食のテーブルに着いた。でも美都子は、赤飯を食べながらも、「のどに通らないわ」と胸の内の心痛を話した。それは工事は終わっても、屋根の防水部分をやってくれる業者が見つからなくて、今年の冬は、ブルーシートの養生で過ごさなければならないかも。しかし、来年の春が来たらどこかの屋根屋さんにやってもらえるという、見通しもないので、お祝いの赤飯も喉に通らないのである。
2026年01月03日 14:36
